きのこの菌が活躍する、共生の時代の自然農法。その「目的」

岩手県で農業を営む、兄から聞いた話です。

兄は若いころにサラリーマンをやめて、自然農法に取り組んでいます。

すっかりお坊さんのような風貌になった、
兄が、うれしそうに語るところによると、

糸状菌(きのこ類)は、人間に似ている」

どこが? と尋ねたら、

「まず、先に、自然界に植物があった。
その植物を分解するために、きのこが出てきた。
動物も、自然界の中では、分解者。
最終的な分解者、ということで、きのこと人間は似ている」

その、きのこの「菌の力」を借りる、自然農法があるのだそうです。

「きのこの菌がいる廃菌床(きのこを育てた後の栽培床で、通常は廃棄する)を、
細かく砕いて土地にまく。
すると、作物の実りがよくなり、病気にかかりにくくなり、雑草が生えにくくなる。
化学肥料、有機肥料、農薬を使わなくてもよくなっていく」

…のだそうです。

糸状菌はおもしろい。
土の中にいるとき、餌がない飢餓状態になると、糸状菌は、
菌糸を伸ばし、ネットワークを張り巡らせて、連絡を取り合って、みんなで休む。
餌が来ると、一斉に動き出して、取り合う。
そんなところも、人間に似ている」(笑)

廃菌床を、土にばらまいておくと、とにかく、雑草が生えにくいそうです。
畑の写真を、兄に見せてもらいましたが、
1年間放置しても、雑草がパラパラとしか生えていません。
隣の普通の土地は、雑草がたくさん生えています。

雑草は生えないけれど、
作物を育てるにはいい状態になっているのだそうです。

「雑草が生えないのに、なぜか、作物の種をまくと発芽する。
人間がまいた種は出る。

糸状菌に、まるで、意思があるみたいに思える。

土の温度が周囲よりも高くなっていて、計ってみたら4℃も高い。
おそらく、糸状菌の“糞”をバクテリアが分解するために、
土が豊かになって、温度も安定し、ストレスがなくなるから、
作物が健康に育ちやすいのだろう。

作物の根っこと、糸状菌が、共生している関係になっている。

収穫量が多くなった例や、回転も早くなった例があって、期待されている。
基本的には、化学肥料も有機肥料も、あまり使わなくて済む。
農薬をへらせる。
作物が病気になりにくい。

もちろん、取り入れて、うまく行ってるところもあるし、
うまく行ってないところもある。

この先どうなるかは、検証中だけど、自然の仕組みを応用した積極的な自然農法。
もともとの自然の仕組み、天の仕組みに近いのではないか」

兄のところでは、トマトが、今年は鈴なりで、困るほどたくさんできたようです。
そのほか、きゅうり。
はくさい。
こまつな。
大根。
ほうれんそう。
なたわりかぼちゃ(写真のもの。なたわりかぼちゃを持っているのが兄です)

なたわりかぼちゃの煮ものは、栗のような、素朴な味わいでした。
作物の味は、いや味がなく、すなおな味になるようです。

「ここから先は不思議な話なんだけどね。
お金のことばかり考えて、とれろとれろ、ではうまくいかない。
子育てするように育てるとうまくいく。
ありがとうと言う気持ちだとうまくいく」

「作物が病気になる、なる、と思えばなる。
ならない、と思えばならない」

「やっていると、だんだん有り難いと思える、感謝だけになる。
つきつめると、それが普通の生活なのかもしれない」

「一刻も早く実証したい。
検証しないといけないのは継続性。永続性。
続けていると、廃菌床をだんだんへらせるようになる。
その先の世界を、一部はかいま見せてくれる」

では、これが農業の主流になるとどうなるのか、と聞いてみました。

すると、

「争いがなくなる」

「それが、目的」

「なぜ、争いがなくなるかといえば、
すべての生き物を活かす仕組みだから。
害虫であっても敵対しない。
すべてはつながって生きているから」

「雑草も目的があって生えている。
土の状態によって、生える雑草が違う。

土にあまり養分がないと、クローバーの類が生えて、土に養分を固定する。

土が固ければ、稲の仲間が生える。
根っこが多いので、土を柔らかくする。

生える雑草は、長い目でみると、そうやって遷移する。

最後のひとつ前が、すすき。

最後は木。

そして、森になるんだよ」